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オクターブ下の掃き溜めから

皆様のお花を摘む時の暇つぶしになれれば幸せな便所の落書きです。

再録「しかえ(いせい)し」

今日は歯医者さんに行って来ました。

歯を治療して貰ってる時って暇だよね。布で目隠しされるし、口は開けっぱだからおしゃべりもできないし。

今日もいつも通り暇だなーなんて考えながら歯医者さんに歯を機械でキュイーンされたり、歯科衛生士のお姉さんに口の中を吸引機?みたいなのでズゴゴゴッてやられたりしてたのさ。

しかし今日はいつもと一つだけ違うことがあった。

お姉さんめっちゃ下手くそ。

喉の入り口まで機械で触るからオエってなるわ、頬っぺたの内側何回もズゴゴゴッ!ボババッ!てされるわで散々だった。

しかし直接お姉さんの手を捕まえて抗議するのもアレかなと。急に腕掴まれたらびっくりしちゃうだろうし。

そこで、今日は口の中で唯一フリーな部分である舌を使って抗議する事を試みた。

抗議っていうか仕返しだね。もはや。

しかしあの吸引機に舌を当てては大惨事になる事は必至。

ならば時折無造作に突っ込まれるお姉さんの指を攻撃する他ない。

これはセクハラではない。1人の患者の声なき声なのだ。

断じてセクハラなどという低俗なアレではない。

その辺は俺も大人としてわきまえているので、「舐める」のではなく、「振りかぶって叩く」事に専念した。

こう、一旦舌を左に振りかぶってから、勢い良く右に動かしてお姉さんの指にぶつけて反応を伺った。

だって俺の口から上には布が被さっており、表情での抗議すらままならない故の、仕方なしの、えー、
そう、聖戦であった。

セクハラではない。紛れもなくそれはジハードであった。



べちっ。



_フルスイングであった。

そこには戦う男の姿があった。

視えざる悪と戦う男の姿があったのだ。

男には視界を遮るタオルも、お姉さんの悪意なき悪も、全てを乗り越え戦う勇気があった。


べちっ。

_笑った。

こともあろうにこの女は笑った。
男の愚策に笑ったのか。
いやそうではなかった。
微笑の意味を考える間も無く、男の聖戦は終わった。
歯医者さんの一言で。


「ん?それ、おっちゃんの指やで。」











「ふあ!?ふぁあ!ふいはふぇん!」


決してセクハラをしたかったわけではない。
お姉さんの指をどうこうしてイタズラしてやろうと思っていたわけではない。

が、

おっさんの指を舐める気はもっと無かったというか、

決してがっかりしたとかそういうアレではないが...

とにかく負けた気がした。

「今度は間を開けずに来てくださいね!」

戦いを終えた戦士を見送る歯科衛生士のお姉さんの目は、どこか優しかった。

「はい...」


またこの戦場に必ず戻ると誓いを立て、戦士は1人涙した。